【映画】冷静と情熱のあいだ

趣味

1999年の小説が原作。
「往復書簡」という手紙形式のように、作家の辻仁成と江國香織の2人が交互に物語を書いて話を進めるという連載から始まった物語を映画にしたもの。

竹野内豊さん演じる主人公の”阿形順正(あがたじゅんせい)”と、10年間思い続けている”あおい”という1人の女性の、日本とイタリアを舞台にした物語。

映画は2001年公開なので今から約20年ほど前の作品にも関わらず、古さを感じさせないのは、イタリアを舞台に描いているからでしょうか。

あおいを演じるケリー・チャンさんという香港の女優の方がすごく綺麗で(初めて知った女優の方ですね)、夢にあおいが出てきそうなくらい。
気が強くて芯があって、でも女性らしさと弱さが描かれていて。20代であれだけ大人びた女性というのもそうそういないでしょう。
ああいう女性に出会ってしまったら絶対忘れられないと思う。

ひとつひとつの所作、芸術作品を扱う舞台設定、そして何よりも「時間」の流れが強調された物語で、過去と今とが折り重なりつつ、それぞれの立場が歯痒いくらいにすれ違っていく。

大学を卒業後、絵画の修復士を志しイタリアフィレンツェの工房で学んでいた阿形順正(あがたじゅんせい)は、同じフィレンツェに住む芽実(めみ)という日本人の彼女にも慕われ、周りの人々からは一見順調な人生を歩んでいるように見えた。しかし、彼の心の中には常に空虚感があった。香港からの留学生で、日本での学生時代をともに過ごし、深く愛し合いお互いを分かり合えた女性、あおいをいまだ忘れられなかったのだ。

あるとき順正は、フィレンツェを訪れた友人の崇(たかし)から、あおいが同じイタリアのミラノにいることを知る。崇から得た情報をたよりにミラノを訪れてみると、あおいはアメリカ人ビジネスマンと生活を共にしていた。全く異なる人生をお互いが歩んでいることを知った順正は、日本に逃げ帰る。

順正の頭の中には、学生時代にあおいが言った「わたしの30歳の誕生日に、フィレンツェのドゥオーモのクーポラで会ってね。約束してね。」という言葉が常にあった。しかし、10年も前の約束をあおいが覚えているとは思えなかった。それにあおいがまだ順正のことを好きでいるはずはないと思っていた。

絵画の修復士という仕事がまたカッコいい。

歴史的な絵画や作品の命を吹き返すという仕事で、1つの作品に何日も没頭する様が描かれているのですが、やっぱり職人という生き方はカッコいい。

僕自身がいま、ビジネスの側面が強い生き方をしている中で、会社のお偉いさんや大企業の役職者の方々とたくさん出会ってきましたが、彼らにあって畏怖の念を覚えることもなければ、会って緊張することもありません。もちろん敬意はあります。

やっぱり目の前に対峙して緊張するのは、職人という生き方をしている人たち。
その道何十年のモノづくりや、生み出す側の生き方をしている人たちの生き様に、僕自身が憧れを抱いているからでしょうか。

この物語に出てくる修復士という仕事をする方にはまだ会ったことはないけれど、絵描きの生き方も体験したことはないけれど、長い歳月をかけて取り組んでいく様。時間の流れに身を委ねるという生き方は、カッコいいなと思うのです。

 

素敵な女性って、やっぱり男の才能に惚れるんだよね。

順正の真っ直ぐさに惹かれた”あおい”や、修復士としての才能に惚れて狂おしいくらいの嫉妬を抱いてしまったジョバンナ先生のように。

ジョバンナ先生(女性)は、フィレンツェで順正に絵画の修復を教えてくれた、修復士の師匠。
順正の修復士としての才能を買っていた。

ジョバンナ先生はある日、チーゴリの絵画という歴史的作品の修復を順正に任せる。この大役にアトリエの他の修復士たちも羨望の眼差しを順正に向ける。

ところが、順正の修復のあまりの出来栄えに、ジョバンナ先生は嫉妬し、絵画をナイフで切り裂いてしまう。値段がつけられないくらいの歴史的絵画の作品に、である。

その結果、アトリエは封鎖され、しばらくしてジョバンナ先生は自殺をしてしまう。
きっと、ジョバンナ先生は順正に惚れていたのだと思う。自ら教えた弟子の才能に惚れて、人生を賭した絵画修復という仕事に自ら終止符を打ってしまうのだ。

芸術家は苦しむ。自分を苦しめてしまう。
でも、その溢れんばかりの才能がまた、人を惹きつける。

小説もオススメ。
BluとRossoの2冊が交互に展開する物語。